東京高等裁判所 平成12年(行ケ)52号 判決 2000年11月29日
原告
本田技研工業株式会社
代表者代表取締役
【A】
訴訟代理人弁理士
【B】
被告
特許庁長官【C】
指定代理人
【D】
同
【E】
同
【F】
同
【G】
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が平成10年審判第2678号事件について平成11年12月20日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、平成元年10月12日、名称を「除雪機の投雪シュータ回動装置」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(特願平1-265970号)をしたが、平成9年12月24日、拒絶査定を受けたので、平成10年2月25日、これに対する不服の審判を請求した。特許庁は、同請求を平成10年審判第2678号事件として審理した結果、平成11年12月20日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成12年1月17日、原告に送達された。
2 本願発明の要旨
投雪用のシュータがブロワハウジングに立設され、このシュータがブロワハウジングに取り付けられたモータの駆動によって回動して投雪方向の変更を行う除雪機に於いて、前記シュータがブロワハウジングの側方に偏位した位置となるように立設され、この偏位によって生じたブロワハウジング上のスペース内に前記モータが配設されていると共に、前記モータ周辺がカバー体によって覆われていることを特徴とする除雪機の投雪シュータ回動装置。
3 審決の理由
審決の理由は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、実願昭62-129092号(実開昭64-37525号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)及び実願昭63-6132号(実開平1-111717号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)に記載された各考案(注、審決書5頁14行目、6頁11行目、15行目及び16行目、7頁2行目、7行目、9行目及び18行目に「発明」とあるのは「考案」の誤記と認める。)から、当業者が容易に発明をすることができたから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。
第3原告主張の審決取消事由
審決は、引用例1記載の考案の認定を誤って本願発明と引用例1記載の考案との一致点の認定を誤り(取消事由1)、引用例2記載の考案の認定を誤り(取消事由2)、本願発明と引用例1及び引用例2記載の各考案との相違点についての判断を誤り(取消事由3)、本願発明の顕著な効果を看過した(取消事由4)結果、本願発明の容易想到性の判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願発明と引用例1記載の考案との一致点の認定の誤り)
引用例1は、投雪筒の下部周囲に固設したリングギヤに正逆転モータの出力ギヤを噛合し、投雪シュータの後方に設けられたモータの駆動によって、投雪筒が回動して投雪方向の変更を行うという従来の除雪機の構成を開示しているにすぎない。引用例1の第2図では、投雪筒が側面から見て、やや左側方に位置しているが、引用例1記載の考案は、本願発明のように、シュータをブロワハウジングの側方に偏位した位置に立設するという積極的な意図を有するものではない。したがって、引用例1について、「投雪筒が投雪シュータの側方に偏位した位置に立設され、投雪シュータの後方に設けられたモータの駆動によって投雪筒が回動して投雪方向の変更を行う除雪機の投雪筒回動装置が記載されている。」(審決書4頁5行目~9行目)とする審決の認定は誤りであって、その結果、本願発明と引用例1記載の考案との一致点についての審決の認定(審決書6頁1行目~7行目)も誤りである。
2 取消事由2(引用例2記載の考案の認定の誤り)
引用例2記載の考案では、シュータ筒の基部側内方に、シュータ筒の中心に沿った回転軸により回転される回転体を軸架したことを特徴とする除雪機において、シュータ筒の基部側内方に雪が詰まることの防止を目的とし、また、引用例2における減速モータは、回転軸に軸着した4本の杆状回転体を駆動するためのものであって、カバーを被着してシュータ筒の外周面に固定されたものである。したがって、引用例2は、シュータの偏位によって生じたブロワハウジング上のスペース内にモータが配設され、このモータ周辺がカバー体によって覆われているという本願発明の構成を示唆するものではないから、審決が「引用例2には、上記相違点a(注、モータの配設位置)及びb(注、カバー体の構成)における本願発明の構成が記載されている。」(審決書6頁19行目~7頁1行目)と認定したことは、誤りである。
3 取消事由3(本願発明と引用例1及び引用例2記載の各考案との相違点の判断の誤り)
引用例2記載の考案は、シュータ筒の基部側内方に雪が詰まることの防止を目的とし、また、引用例2における減速モータは、回転軸に軸着した4本の杆状回転体を駆動するためのものであって、カバーを被着してシュータ筒の外周面に固定されたものであるから、本願発明の構成を示唆するものではない。
引用例が本願発明の進歩性の判断に適用可能な考案であるというためには、単に引用例記載の考案と本願発明とが技術分野を異にしないものであるのみならず、これらが技術思想的に近接し共通の要素を持つものでなければならない。ところが、本願発明と引用例1及び引用例2記載の各考案は、技術分野が異なるものではないが、本願発明は、シュータの取付容易性、保守点検の容易性、積雪、ほこりの付着等の防止、メインテナンスの容易化等を目的とするのに対し、引用例1記載の考案は、側方の同じ方向に投雪することを目的とし、また、引用例2記載の考案は、シュータ内の雪の詰まりの防止等を目的としたものであるから、技術思想的に相互に近接し、かつ、共通の要素を持つものとはいえない。したがって、引用例1及び引用例2は、本願発明の進歩性の判断に適用可能な考案ではない。
4 取消事由4(顕著な効果の看過)
本願発明のカバー体は、ブロワハウジング上方の中央部近傍に位置することにより、シュータの取付容易化、保守作業の効率化に加えて、モータと駆動機構への積雪、ほこり等の付着の防止、故障の防止、メンテナンスの容易化等を図ることができるという顕著な効果を奏する。しかし、引用例2記載のモータに付着するカバーを、引用例1記載のシュータ背後に設けられたモータに適用しても、その構成は本願発明のカバー体とは著しく相違するものであるから、本願発明の上記の効果を奏することができない。したがって、「本願発明によってもたらされる効果も、引用例1及び2に記載された事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。」(審決書7頁13行目~16行目)とした審決の判断は、誤りである。
第4被告の反論
1 取消事由1(本願発明と引用例1記載の考案との一致点の認定の誤り)について
引用例1の第2図には、投雪筒が側面から見てやや左側方に位置して記載されており、また、投雪筒を投雪シュータ2の側方に偏位した位置に立設することは、この種の除雪機の技術常識からすれば、投雪シュータ内の跳上翼車11の回転によって集められた雪をその跳上翼車の回転の接線方向へ投雪シュータによって跳ね上げるという機能から当然到達する構成にすぎない。この点は、実願昭56-142963号(実開昭58-50113号)のマイクロフィルム(乙第1号証)、実願昭61-59174号(実開昭62-172708号)のマイクロフィルム(乙第2号証)及び実願昭56-1692号(実開昭57-114815号)のマイクロフィルム(乙第3号証)からも、明らかである。
原告は、本願発明と引用例1記載の考案では、シュータ(引用例1の投雪筒)をブロワハウジング(引用例1の投雪シュータ)の側方に偏位した位置に立設した目的が相違する旨主張する。しかしながら、本願発明においても、このような構成による効果は、その取付作業、保守、修理等の作業性の悪さを改良することだけであるとはいえない。
2 取消事由2(引用例2記載の考案の認定の誤り)について
引用例2におけるカバーを被着したモータが固定された筒の外周面は、跳上胴上のシュータ筒を立設していないスペース内、すなわち、本願発明における「偏位によって生じたブロワハウジング上のスペース内」であるから、引用例2記載の考案と本願発明は、相違点a(モータの配設位置)及びb(カバー体の構成)について差異がない。
3 取消事由3(本願発明と引用例1及び引用例2記載の各考案との相違点の判断の誤り)について
引用例1には、モータの駆動によってシュータを回動して投雪方向の変更を行う点が開示されており、引用例1及び引用例2記載の各考案は、除雪機の投雪シュータという同一の技術分野に属するものであることを考慮すると、引用例1記載の考案のモータの配設に引用例2記載の上記相違点a及びbの構成を採用することに格別の困難性はない。
引用例1記載の考案のモータは、本願発明のモータと同様に、投雪用のシュータを駆動するものであり、引用例2に記載されているモータも、駆動対象は異なるが、除雪機における投雪用のシュータに配置されるモータである点で、共通の要素を持つものであるから、モータを配設するに際しどのような位置を採用するかは、当業者が容易に選択し得ることである。そして、引用例1記載の考案に引用例2記載の考案を適用することを阻害する特段の要因もない。
4 取消事由4(顕著な効果の看過)について
保守作業の効率化、モータ等への積雪及びほこりの付着防止、メンテナンスの容易化等の効果は、モータをブロワハウジング上の空きスペースに配設し、カバー体を被着した引用例2記載の考案の構成が有する自明の効果であるから、引用例1記載の考案のモータの配設に引用例2記載の考案の構成を採用した場合、本願発明と同様の、シュータの取付容易化、保守作業の効率化、モータ等への積雪及びほこりの付着防止、故障の防止、メンテナンスの容易化等の効果が得られることは、当業者が当然予測できることである。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(本願発明と引用例1記載の考案との一致点の認定の誤り)について
(1) 引用例1(甲第3号証)には、実用新案登録請求の範囲に「機体の前方に横設した掻込オーガ(1)の後方には上部の投雪筒(2a)を回動可能にした投雪シュータ(2)を連通連設して構成する除雪機において、前記投雪筒(2a)をモータ(M)により回転駆動できるように装設し」(1頁5行目~9行目)と、考案の詳細な説明中に「本機(A)の前方に横設したデッキ(10)の内方には掻込オーガ(1)を軸架し、デッキ(10)の後方に連通連設して跳上翼車(11)を内装する投雪シュータ(2)の上方には投雪筒(2a)の下部を回動自由に嵌装して従来形構造同様に構成する。」(4頁3行目~8行目)と記載されている。
また、引用例1(甲第3号証)には、「前記投雪筒(2a)の下部周囲に固設したリングギヤ(12)には正逆転モータ(M)の出力ギヤ(13)を噛合し・・・て構成する。したがって、第5図に示すように、矢印(イ)で示すように往復動しながら・・・旋回する際、・・・モータ(M)が一方に回動することになって、それまで左側に向いていた投雪筒(2a)が180度回転して右側に向くことになり、除雪方向が変わっても投雪筒(2a)は投雪場所(X)の方向に自動的に向きを変えられて、投雪筒(2a)からは矢印(ロ)(ハ)で示すように投雪場所(X)の方向へ投雪されることになる。」(4頁9行目~5頁11行目)、「第2図は投雪筒を回動させた状態となる除雪機の背面図」(6頁7行目~8行目)と記載されている。
これらの記載に引用例1(甲第3号証)の第1、第2、第5図を併せ考えると、引用例1記載の考案は、積雪をオーガによってかき込み、デッキ後方の跳上翼車により上方に吹き上げて、投雪シュータの上方の投雪筒を回動することにより投雪場所の方向に投雪する従来形構造の除雪機において、「走行部の両サイドクラッチのオフ操作によりそれぞれ作動する両スイッチ(3a)(3b)により前記投雪筒(2a)が左右方向に変向回動するよう前記モータ(M)を駆動自在にして構成したことを特徴とする投雪方向自動調節装置」(実用新案登録請求の範囲、1頁9行目~13行目)であると認められる。そして、引用例1の第1図は、投雪筒を回動するモータが、投雪シュータの後方に設けられていることを図示し、引用例1の第2図は、投雪筒が除雪機の車体幅の中央から、左側方に偏位して設けられていることを図示している。
したがって、引用例1に「投雪筒が投雪シュータの側方に偏位した位置に立設され、投雪シュータの後方に設けられたモータの駆動によって投雪筒が回動して投雪方向の変更を行う除雪機の投雪筒回動装置が記載されている。」(審決書4頁5行目~9行目)とする審決の認定に誤りはない。
(2) 原告は、引用例1記載の考案が、本願発明のように、シュータをブロワハウジングの側方に偏位した位置に立設するという積極的な意図を有するものではないと主張する。
しかしながら、引用例1記載の考案は、前示のとおり、オーガによってかき込んだ雪を跳上翼車により上方に吹き上げて、投雪シュータの上方の投雪筒を通じて投雪する従来形構造の除雪機を前提とするものであるから、その跳上翼車も従来型のものと認められる。
そして、実願昭56-142963号(実開昭58-50113号)のマイクロフィルム(乙第1号証)には、「特にブロワー装置と、これに連設される直立状の投雪用シュートとを備える除雪機において、投雪用シュート内の雪づまりを未然に防止できるよう改良された除雪機に関する」(1頁15行目~19行目)、「第3図および第4図は、前記ブロワーケース22、ブロワー羽根30などで構成されるブロワー装置33部分を示しており、ブロワーケース22はブロワ羽根30を回転自在に収容した円筒部34の上部に、投雪用シュート23に接続する連設部35を備えている。この連設部35は上記ブロワー羽根30の回転中心から側方にずれた位置で円筒部34の接線方向に向け上方に突設される」(7頁9行目~16行目)と記載され、これらの記載と第3、第4図によれば、「シュート23」(引用例1の「投雪筒2a」)が、「ブロワー羽根30」(引用例1の「跳上翼車11」)の回転中心から側方にずれた位置で、「円筒部34」(引用例1の「投雪シュータ2」)の側方に偏位した位置となるように立設されていることが認められる。
また、実願昭61-59174号(実開昭62-172708号)のマイクロフィルム(乙第2号証)には、「除雪機の雪を排出するシュート(12)において、シュート回動部(12a)とブロアケース(10)の排出口(10a)間に引出筒(16)を配置し、該引出筒(16)を側方に引き出し可能に構成したことを特徴とする除雪機のシュート構造」(実用新案登録請求の範囲、1頁5行目~9行目)の考案が記載され、その第2、第3図によれば、「シュート12」(引用例1の「投雪筒2a」)が、「ブロア14」(引用例1の「跳上翼車11」)の回転中心から側方にずれた位置で、「ブロアケース10」(引用例1の「投雪シュータ2」)の側方に偏位した位置となるように立設されていることが認められる。
さらに、実願昭56-1692号(実開昭57-114815号)のマイクロフィルム(乙第3号証)には、「シュートとブロワケースとが旋回軸受を介して一体に接続された除雪車等のシュート装置」の考案が記載され、その第1、第4図によれば、「下部シュート5,105」(引用例1の「投雪筒2a」)が、「ブロア」(引用例1の「跳上翼車11」)の回転中心から側方にずれた位置で、「ブロアケース2,102」(引用例1の「投雪シュータ2」)の側方に偏位した位置となるように立設されていることが認められる。
これらの証拠によれば、投雪筒が、跳上翼車の回転中心から側方にずれた位置で、投雪シュータの側方に偏位した位置となるように立設される構成は、除雪車において周知であって、かつ、かき込んだ雪を跳上翼車の回転力によって跳ね上げるための技術的理由により、上記の偏位した位置が採用されているものと認められる。
したがって、引用例1記載の考案も、また、上記のような積極的な理由により、投雪筒が、跳上翼車の回転中心から側方にずれた位置で、投雪シュータの側方に偏位した位置となるように立設されているという構成を採用しているとした審決の認定に誤りはない。よって、原告の主張は理由がない。
(3) そして、引用例1記載の考案は、前示のとおり、積雪をオーガによってかき込み、デッキ後方の跳上翼車により上方に吹き上げて、投雪シュータの上方の投雪筒を回動することにより投雪場所の方向に投雪する従来形構造の除雪機を前提とするものであるから、上記の各構成要素の機能からみて、引用例1記載の考案の「デッキ」、「跳上翼車」、「投雪シュータ」、「投雪筒」、「投雪筒回動装置」は、それぞれ本願発明の「オーガハウジング」、「ブロワ」、「ブロワハウジング」、「投雪用のシュータ」、「投雪シュータ回動装置」に相当するものと認められるから、本願発明と引用例1記載の考案を対比して、「投雪用のシュータがブロワハウジングに立設され、このシュータがブロワハウジングに取り付けられたモータの駆動によって回動して投雪方向の変更を行う除雪機に於いて、前記シュータがブロワハウジングの側方に偏位した位置となるように立設されている除雪機の投雪シュータ回動装置の点で一致し」(審決書6頁1行目~7行目)ているとした審決の認定に誤りはない。
2 取消事由2(引用例2の認定の誤り)について
(1) 引用例2(甲第4号証)には、「本考案は、投雪シュータにおけるシュータ筒の基部側内方に雪が詰まるのを防止できるようにした除雪機の投雪シュータ内詰り防止装置に関する。」(1頁13行目~15行目)、「第3図は除雪機の側面図を示し、・・・・本機(A)の前方に連設したオーガカバー(7)の内方には横方向の掻込オーガ(8)を軸架し、オーガカバー(7)の横方向中央後部には、上方にシュータ筒(1b)を延設する投雪シュータ(1)の跳上胴(1a)の前部を連通連設し、該跳上胴(1a)内の跳上翼車(9)および前記掻込オーガ(8)を前記本機(A)より回転駆動できるように装設して従来形構造同様に構成する。」(3頁9行目~19行目)と記載されているので、引用例2記載の考案は、積雪をオーガによってかき込み、オーガカバー7(本願発明の「オーガハウジング」)後方の跳上翼車9(本願発明の「ブロワ」)により上方に吹き上げて、シュータ筒1b(本願発明の「投雪用のシュータ」)により投雪する従来型の除雪機を前提として、シュータ筒の基部側内方に雪が詰まるのを防止した装置に関するものと認められる。
(2) そして、引用例2(甲第4号証)の第1、第3図には、投雪用のシュータが、ブロワの回転中心から側方にずれた位置で、跳上胴1a(本願発明の「ブロワハウジング」)の側方に偏位した位置となるように立設され、この偏位によって生じたブロワハウジング上のスペース内に減速モータ13(本願発明の「モータ」)が配設されていること、前記モータ周辺がカバー体によって覆われていることが図示されている。
(3) したがって、引用例2に相違点a(モータの配設位置)及びb(カバー体の構成)における本願発明の構成が記載されているとした審決の認定に誤りはない。
3 取消事由3(本願発明と引用例1及び引用例2記載の各考案との相違点の判断の誤り)について
(1) 原告は、引用例2記載の考案がシュータ筒の基部側内方に雪が詰まることの防止を目的とし、また、引用例2における減速モータは、回転軸に軸着した4本の杆状回転体を駆動するためのものであって、カバーを被着してシュータ筒の外周面に固定されたものであるから、本願発明の構成を示唆するものではないと主張する。確かに、引用例2の減速モータは、杆状回転体を駆動するためのものであるが、引用例1には、シュータを回動するためのモータが記載されている以上、このモータ及び上記減速モータは、ともに除雪機の投雪用のシュータの近傍に搭載されるモータであるから、引用例2記載の考案における減速モータの位置及びカバーを被着する構成を引用例1記載の考案のモータに適用することは、当業者が容易に想到することができるというべきである。
(2) 原告は、本願発明が引用例1及び引用例2記載の各考案と目的を異にし、これら引用例を組み合わせて本願発明に想到することはできない旨主張する。しかしながら、本願発明と引用例1及び引用例2記載の各考案とは、前示のとおり、いずれもオーガによってかき込んだ雪をブロワにより上方に吹き上げて投雪用のシュータにより投雪する除雪機である点において共通するから、当業者であれば、引用例1及び引用例2記載の各考案を組み合わせて本願発明を想到することは容易であるというべきである。
4 取消事由4(顕著な効果の看過)について
原告は、引用例2記載の考案のモータに付着するカバーを、引用例1記載のシュータ背後に設けられたモータに適用しても、その構成は本願発明のカバー体とは著しく相違するものであるから、本願発明の効果を奏することができない旨主張する。しかしながら、本願発明の効果として原告が主張するもののうち、モータと駆動機構への積雪、ほこり等の付着の防止、故障の防止及びメンテナンスの容易化の点については、いずれも、引用例2記載の考案と同様、カバー体でモータ周辺を覆ったことにより奏される効果であって、顕著な効果であるということはできず、また、シュータ取付けの容易性及び保守作業の効率化の点については、本願発明の特許請求の範囲においてカバー体及びシュータの形状を具体的に限定する記載がないから、本願発明の要旨に基づかない主張である。
5 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 長沢幸男 裁判官 宮坂昌利)